バラは遥か古代から聖なるものの象徴とされてきた。それは美の女神ヴィーナスに“美しさの象徴”として奉納されていることからもわかる。 6万年前、人類が最初に利用した花の一つとされているのがバラ。イラク北部の洞窟から発見されたネアンデルタール人の骨の近くから花粉が検出されている。これは死者の周りを花で飾り、埋葬した証拠と考えられている。分析の結果、数種類の花粉の中からバラの古代種と思われるものが見つかっている。色も赤、緋、橙、黄、白とにぎやかだったようだ。 ちなみにバラの故郷は中国やインドの常緑樹森である。
エジプトでは紀元前13世紀前半に初めて観賞用として栽培が開始された。特に女王クレオパトラは、バラをこよなく愛した人物として知られている。有名な話として、宮殿で宴会が開かれる際、招待客を迎えるためバラの花びらを30cmも積み上げ、自らもその香りを楽しんでいた。また愛する人のため船をバラで埋め尽くし、船の帆にバラの香りを染み込ませ相手に届けたとされる。
バラは古代ローマにおいて宗教的儀式や祭りで使われ、まさにローマ帝国の繁栄のシンボルであった。また初代皇帝アウグストゥス(紀元前63年〜紀元14年)は5月下旬から6月初旬に“ロザリア”と呼ばれるバラ祭りを誕生させた。この祭りは解放された奴隷の儀式でもあったことから、バラは“自由のシンボル”としても人々に親しまれるようになる。 その後、ローマでは一般市民もバラの栽培を始め、バラの庭園“ローザリウム”ができたほどだ。現在イギリスでも親しまれているバラ園の語源は、古代ローマからきている。
ブルガリアにバラが伝わったのは、16世紀後半のオスマン・トルコ帝国スルタン(王)ムラドゥ3世の命令によるものだった。当時からローズオイルの貴重性が高く評価されていたとの記述が残されている。その後1840年にフランス領事官が、ブルガリアのカザンラク(バラの谷)では良質のローズオイルが生産されていると報告してる。余談ではあるが、ブルガリアにおいて初めてローズオイルの会社が設立されたのは1820年で、とても長い歴史がある。
時代も地域も飛び越え、バラが人々に愛され続けていることがわかるエピソードばかりである。 |